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棒グラフの数値には表せない「堅く逞しくなるプロセス」にこそ本当の価値があるのではないか
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急迫は事を破り、寧耐は事を成す。

西郷隆盛が好んだ言葉だそうです。

「物事はあわてて取り組むと失敗するが丁寧に進めれば成功する」という意味で解説されています。

「急がば廻れ」「急いては事を仕損じる」と同様の意味合いで解釈されていることが多いようですが、ボクには少し違うように読み取れるんです。

『機に恵まれ弊害に会うことなく、急き立てられるように至った「事」は脆く破れやすい。四耐を経てこそ「事」は堅く成る。』

四耐とは陽明学の祖、王陽明の「四耐四不の辞」からの引用で、冷・苦・煩・閑に耐え、激・躁・競・随をしないという教えです。

耐冷:周囲との関係上の温度差
耐苦:物理的に過酷なストレス
耐煩:意に添わない面倒な雑事
耐閑:暇を持て余す不安

騙し騙し進むのではなく、これらと正面から向き合い乗り越える。その過程を経て「事」が堅く成るのは想像に難くないですね。

ちなみに四不はとは
不激:怒りが激しくならないよう
不躁:歓びもやたらめったら高揚せず
不競:自と他を比べたとしても、わざわざ競いかけることなかれ
不随:周りは周りと心得、振り回されたり、意思を持たずついてまわるべからず

明治維新の主軸だった西郷隆盛の生き様はまさに「四耐四不」です。

急迫をもって成立した明治新政府は幕府体制の腐敗を引摺り実のない脆い政府となってしまいます。征韓論政変でその脆さを露呈し、新政府に失望した西郷は日本を憂いて下野します。時は特権を奪われた士族が国内各地で内乱を起こしていた時期で、西郷が下野した薩摩でもその高まる不満を抑えきれず、ついに西南戦争が勃発、奇しくも自ら行った革命により特権を失った士族たちの運命に責任を取るかのように1877年に城山で散りました。

その後の日本は幾度もの苦難を伴いながら、寧耐をもって乗り越えてきました。
むしろ、超大国に囲まれ、自然災害の猛威に常にさらされ続けてきた日本人の気質として、寧耐を重んじる精神が予め備わっているのかもしれません。

西郷隆盛が亡くなってから100年が経った時、日本は高度経済成長の終焉を迎えました。その後の日本経済は安定成長期と言われていますが、果たしていかがなものでしょう?
経済成長を前提とした社会保障システムは高齢化社会の到来とともに破綻し、都心人口集中と地方の過疎化で地域不均衡は広がるばかり。多数の衰退を一部の急迫な成長が補完し、辛うじて経済成長率を保っています。
資本主義と一緒に持ち込まれた効率至上主義は私達の暮らしの中にも蔓延し、文化・教育・娯楽・あらゆる分野でスペック的成長を持て囃し、今や「いいね」でスペック評価する国民総「スペック」評論家社会です。

スペックを評価するにおいては急迫か寧耐かは問題でなくなり、その時点での点数結果が全てです。
繁栄は短期に破れ不本意な破綻へと繋がりやすいことは明白です。
堅く逞しく経て事成るためにプロセスを注意深く見守る辛抱強さを置き去りにして、果たして本当に事は成るのでしょうか。

    Evernoteの創業者、Phil Libinさんは100年後もEvernoteが繁栄し続けているようにと、100年以上存続している企業を徹底的に調べました。世界には100年以上の歴史を持つ企業が約3000社ありますが、驚くことにその約80%が日本企業で(多くはスモールビジネス)、日本型の経営とシリコンバレーのスタートアップメンタリティーを融合させることが長期的に繁栄する企業には必要だと述べています。lrandcom.comより

かく言う私が勤めていた「たけびし」という電機系商社も今年で創立88年だそうで、しかも無借金経営です。
四耐四不が根付いていたからこそ成せているという側面もありますが、リスクを覚悟した挑戦に消極的だという側面もあります。緩やかな成長は注目を集めることはありませんが、ある程度のゆるさを内包しつつ、地道に安定確実な成長を遂げてきました。時々顔を会わせる会社の元同僚たちに、今世間で語られるような悲壮感は微塵もありません。

視聴率稼ぎに躍起になるテレビがヤラセを電波に垂れ流し、点数至上主義が子供にストレスを与え、注目を集めることにばかり執心する音楽事業家は魂を捨て去り、業績をあげようとするあらゆる産業の広告が情報流通を混乱させ、カップルはスマホゲームのスコアに気を取られて目の前にいる相手との会話を減らし、幼稚な活動家は共感者を得るために年齢職業を偽り、「金払ってるからいいじゃないか」と言わんばかりに、我が子の前で親が資源・食料を平気で捨てる世の中になってしまいました。

「急迫は事を破り、寧耐は事を成す。」

棒グラフの数値には表せない「堅く逞しくなるプロセス」にこそ本当の価値があるということを、この言葉から読み取ろうとするのは無理があるのでしょうか。

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